プロローグ
季節はずれの嵐の夜。
雷鳴が轟き,窓に閃光が走る。
散らかった部屋。
端末の液晶モニタに雷光が反射して数々のジャンクの影が浮かびあがる。
プリントアウトの裏に書き散らかしたメモの束には
コーヒーカップの底の丸い跡が幾重にモアレ模様を生じている。
「嘘だ! 愛情不足だと!? 家出!? 自殺だと?!」
愛情不足なワケはない,あんなに可愛いがっていたのに。
家出なんかするワケはない,あんなに素直だったのに。
ましてや自殺など…。
失踪した日もいつもと同じように金一郎は元気に挨拶をして出かけていった。
これは自殺なんかでは無い。金一郎は殺されたのだ。
ヤツらに違いない。ヤツらが私のかわいい金一郎を殺したのだ。
「私は認めないぞ! 金一郎の死を!」
そうだ,私とて研究者のはしくれ。ロボットを造ればいいのだ。
決して死ぬ事の無い,ヤツらに負ける事の無い不死身の金一郎をこの手で造ればいいのだ。
終わりの始まり
時は流れ,再び嵐の夜。
私はやった。永遠の生命を創造するのだ。
誰にも理解される事の無い研究に没頭する長い歳月…,学界からは追放され,妻も去った。
だがもう独りでは無い。
遂に復活の時が来たのだ。今宵の雷による電気エネルギーを注入すれば完成だ。
「目醒めよ! 我が子よ!」
落雷の閃光と同時に避雷針から引き込んだ大容量の電流が *ソレ* に満たされる。強烈なパワーが充填されていく。
「そうだ! 起き上がるのだ!」
次の瞬間。
「いかん! 失敗だ!!」
バッファオーバーフローの脆弱性がトロイの木馬でウイルスが無限ループしているのか?! 早く止めないと! ポリモーフィズムサーキットが暴走!? リークしている?! 何て事だ!? 停止を!! ぐはぁ!!
爆発。
半径 100m に及び周辺は焼け野原と化した。
元より郊外の一軒家でお化け屋敷と気味悪がられていたその場所はその他に被害もなく,一人の狂った研究者の死は大きな話題になる事も無く,充分な検証もされる事なく落雷による火災と報道されただけに終った。
しかし,その中心部にはまだ……。
『ボクハ…,ダレ?』
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